一日は長し、一生は短し

2013.02.25

代表的日本人

 マンションというのは、10数年に1度、大規模改修工事というのが義務付けられているようで、僕の住んでいるマンションも、つい先日それが始まった。

 大規模工事については、マンションの管理組合が中心になって、業者の説明会を何度か開催し、居住者に十分理解してもらった上で決定し、それに対する一定の準備期間を経ての開始となる。

 しかし、数度開催された説明会には、仕事があったり、家の用事があったりで、結局僕は一度も参加する機会がなく、配布された資料に軽く目を通すだけでのぶっつけ本番のスタートとなった。

 事前に話を聞かなかった自分が悪いのだが、これがもう大変なことで、マンションの規約上、共用部分となっているベランダに置いてあるものをすべて片付けなくてはならないのだ。

 片付けるといっても、それを保管する場所が提供される訳ではないので、家の中か玄関先にしばらく置いておくこととなる。その為、家の中はあさがおの植木鉢があったり、カブトムシのさなぎが眠っているプラの箱があったり、生ゴミやら瓶やら缶やらあったりで、まさにゴミ屋敷状態となってしまった。

 工事は数ヶ月掛かるようなので、かなり不便な生活を強いられることになるのだが、振り返ってみると、僕の学生時代の下宿が同じような状態だったことを思い出して、こんな生活にも懐かしさを感じる(笑)。

さて、今回紹介する本は、「代表的日本人」(著者:内村鑑三、現代日本語訳:齋藤慎子、致知出版社)で、著者の内村鑑三は、戦争へ突き進んでいく日本を憂い、徹底して平和を唱えたキリスト教の思想家だ。

 高校生の頃、授業で何度も名前を聞かされたので、内村鑑三という名前だけは知っていたが、「学問のすすめ(福沢諭吉)」や「武士道(新渡戸稲造)」と共に、「いつか読んでみたかった日本の名著シリーズ(致知出版社)」のひとつとして紹介されていたので、手にすることにした。

 内村鑑三は、英語で何冊か本を著しているようで、この本も原題を「Japan and the Japanese」とし、日清戦争の最中に英語で出版されたそうだ。邦訳のタイトルは「日本及び日本人」となっている。

 本の中で著者は5人の偉人を取り上げ、それぞれに対する著者の思いを最初に著して、続いてその偉人の功績を紹介していく内容となっている。

 その日本を代表する5人に、新しい日本の創設者として「西郷隆盛」、封建藩主として「上杉鷹山」、農民聖者として「二宮尊徳」、村の先生として「中江藤樹」、仏教僧侶として「日蓮上人」を取り上げている。

 その中で二宮尊徳、少年の頃は二宮金次郎を内村鑑三がどう評しているか紹介したい。

 二宮金次郎と言えば、背に薪を背負って読書をしている銅像を思い浮かべるが、勤勉と努力の鏡として古くから尊敬されてきた偉人だ。

 荒廃しきった田畑を元に戻し、そこから豊かな恵みを生み出し、多くの農村が平穏で豊かな暮らしができるよう導いた功労者である。

 その改革を成功させてきた理由を問われて、尊徳はこう答えている。「補助金の支給や年貢の免除は、苦しんでいる人々を救うのに何の役にも立たない。このような支援は、強欲や怠惰を引き起こすばかりで、村人のあいだに不和をもたらす種となる。仁愛、勤勉、自助、このような徳を徹底していくところにのみ希望が生まれる。」

 田畑が荒廃するのは、人々の精神が荒廃しているからで、豊かな田畑を取り戻そうと思えば、まず精神を正してしっかりとした道徳観を持つべきだ。国民ひとりひとりがそう心掛ければ、一国を救うこともできる。

 著者の内村鑑三は、二宮尊徳という人間を通して、そう訴えたかったのではなかろうか。これは、今の日本にも通じることであり、自分もひとりの人間として、また会社の社長として、いつもそう心掛けたいと思う。

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