一日は長し、一生は短し

2013.05.28

明治・父・アメリカ

 先の日曜日、小学生の長男の運動会があり、真夏のような炎天下の中、家族揃って応援に行ってきた。

 幼稚園の頃から走るのが得意だった長男は、リレーの代表を選ぶ予選で負けてしまい、全員が参加する「かけっこ」でその屈辱を晴らすこととなった。

 リレー代表選考では、うまくスタートできなかったからと言い訳していたので、きっと「かけっこ」ではダントツ1位になるだろうと思い、僕も他の親同様、ビデオカメラを構えてゴール付近で待機した。

 ところが、小学校1年生というのは、殆どの子が背格好が同じで、遠くからだとカメラをズームアップして探す他ない。

 その上、スタートの辺りに固まってごちゃごちゃいるので、どれが自分の息子か判らず靴の色で見分ける。

 しかし、この息子、落ち着きがなく、あっち行ったりこっち行ったりで、カメラの画面からすぐ消えてしまう。

 赤い靴、赤い靴と探すものの、他にも赤い靴の子は何人かいて、なかなか見つからず苦労していたら、なんとスタートラインに立っているのが我が息子。

 よーい、ドン!の合図と共に、我が息子は予定通りトップで疾走して来るではないか!

 やった!一番だ!と思い、しっかりカメラに画像を収めて相方に言ったら、「パパ、ゆう君、ゴール前で次の子に抜かれて2位だったよ。」との返答。

 ゴールの10メートル先がゴールと思って、最後まで力を抜かずに走れ!って何度も言ったのに・・・(涙)。まあ、それも運動会ってことで、来年に期待したい。
 さて、今回ご紹介する本は、僕が中学に入ってから本が好きになるきっかけになった作家、星新一の「明治・父・アメリカ」(新潮文庫)である。

 星新一と言えばショートショートの第一人者として有名で、僕がのめり込んで読んだのも、すべてショートショートだった。

 ところが、この「明治・父・アメリカ」は長編でしかも伝記である。伝記といっても実父の星一(はじめ)氏についての半生を描いたものである。

 星一氏は幼少の頃からガキ大将で、その後、福島の生家を出て東京で苦学し、20歳で単身渡米し、行商をしながら学費を稼いで英語を学び、帰国後、星製薬を起業した明治の人だ。

 この人のすごさは、お金を稼ぐことに苦労は厭わず、それを使うことにも失うことにも無頓着なところである。稼ぐといっても決して利己心というより、国の為に行動しようと思う自分の野心からであり、その行動力は凄まじい。

 こういう人生を生きていると、神様はドラマティックな出会いを演出したがるのか、渡米先では野口英世、新渡戸稲造、伊藤博文といった歴史に名を残した人達と懇意になり、帰国後も大いに親交を深めた。

 中でも、津田梅子の妹と、結婚まで至らなかったとはいえ、婚約したということも驚きで、この親にしてこの子ありと言うが、長男である星新一が、今の時代ではなかなかあり得ない環境で育ったことを、ちょっと羨ましく思った。

 破天荒と行動力は、時には表裏一体で、まさにその両面を併せ持って人生を駆けた男。それが星新一の父、星一氏であり、星新一の小説の原点であると思う。

 そう想って、ショートショートを読んでみると、また一味違った趣と感動がある。

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