一日は長し、一生は短し

2013.06.24

我、弱き者ゆえに-

 1974年10月30日、高校2年生の僕は学校の帰り、デパートの家電売り場のテレビに釘付けになっていた。

 モハメッド・アリ対ジョージ・フォアマンのキンシャサ(コンゴ共和国の首都)での世紀の一戦をライブで観ようと、カバンを手にしたまま、制服姿で1時間あまり立ち尽くしていた。

 ラウンドが進むにつれ、僕の周りに人が増え、決着を迎えた第8ラウンドは黒山の人だかりとなり、アリがこの日、初めて出したと言っていい程の強烈なワンツーが決まり、フォアマンが力尽きて倒れると、その1台のテレビの前は歓喜の渦となった。

 小さな頃、気の小さい僕は喧嘩となるといつも逃げていたが、後にも先にもただ一度、小学校の上級生が友人の遊具を取り上げた時、何も考えずに飛び掛っていったことがある。

 体が小さい僕は、相手にしがみついて離れず、揉み合いながら最後は押さえ込まれて一発二発とぶん殴られた思い出がある。

 その後、どうなったのかは記憶にないが、負けはしたものの、変な満足感を覚えたことははっきり今でも残っている。

 ボクシングが好きになったのはその頃からだろうか。大場政夫、柴田国明、ガッツ石松、輪島功一、具志堅用高・・・。ドキドキしながらテレビにかじりついたものだ。
 さて、今回紹介する本は、WBC世界フライ級の現役チャンピオン、八重樫東(あきら)氏の著書「我、弱き者ゆえに-」(東邦出版)である。ミニマム級時代に、当時のチャンピオン、井岡選手に挑戦し激闘の末に僅差で敗れたが、その類稀な攻めのスタイルと根性が高く評価され、一躍有名になった選手である。

 この強打のチャンピオンが、自らを弱き者と呼び、その男がどういう心掛けでトレーニングを積み、どう試合に挑んでいくか。それを自分の人生観と照らし合わせながら、シンプルな表現で著している本である。

 人間味のある大変いい男なので(直接面識がある訳ではないので、本から察するに)、内容は本を購入して読んでいただくとして、ここでは心に残る言葉を紹介したい。

「極限の世界に追い込まれた時、感謝の心を忘れている人間に勝利の女神は微笑んでくれない」

 人間として常識やモラルを身に付けることは大切で、特にチャンピオンともなれば、それは当たり前のことだ。それがあるから、人の恩に義理を感じることができるし、恩義に対しては感謝の気持ちが行動に現れる。

「今日頑張れない人間が、明日頑張れるはずがない」

 今、目の前にあることに全力でぶつかることが大事。目の前のことに一生懸命になれない人間が、そのもっと先にある自分の夢に一生懸命になれるはずがない。

 この本の副題が「弱者による勝利のマネジメント術」とあるが、ボクシングも、勉強も、仕事も、どれも原則は同じなのだと痛感した本である。

「逃げない、投げない、あきらめない。たとえあなたが一時は失敗であっても、負けや失敗を経験して覚悟を背負えば、敗者復活戦のチャンスは必ずやってくる」

 何があっても、どんな時でも、そういう気持ちで行動する。覚悟を持って挑む事が勝利を導く。決して恵まれた体とは言えないチャンピオンが、苦労しながら今に至った真実の一冊である。

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